「集中治療と臨床倫理 ‐ 倫理的・法的・社会的問題への対応」~日本集中治療医学会第3回教育講座に参加して~

 みなさまはじめまして。堀口真仁と申します。
 今年2月から、救命救急センターに着任致しました。どうぞ宜しくお願い致します。

当院は『日本集中治療医学会 専門医研修施設』に認定されています。

先日東京で行われました、表記の教育講座を受講してきました。第3回とありますが、4シリーズです。
本シリーズの趣旨を要約しますと、「医療技術の進歩、個人の価値観の変化、家族構成の変化等によって、医療を取り巻く環境が従来とは大きく変化してきた中、集中治療領域も含む医療現場では臨床倫理に関する問題が多数発生するようになっているため、医学・法学・倫理学の専門家が基礎理論の解説を行うとともに、集中治療の現場で生じる具体的な問題について、受講者と講師とでその対応のあり方を検討する」というものです。確かに、21世紀に入る前後から医療に関する自己決定権が日本でも意識されるようになり、インフォームドコンセントの重要性も認識されるようになってきたと思います。それにつれて、20世紀の医療パターナリズム時代にはあまりなかったような、判断に迷う事例も増えてくるのは必然なのでしょう。

 1回、第2回の講座では、医療倫理における法とガイドライン(指針)の役割、医療倫理の四原則(自律尊重原則、善行原則、無危害原則、正義原則)、臨床倫理の症例検討法、インフォームド・コンセントの要素と関連する諸問題、事前指示(リビングウィル等)とその取扱い、などが取り上げられていました。

今回のテーマは、宗教上の理由による輸血の差し控えの許容性、終末期医療の差し控え・中止の許容性、終末期医療に関するガイドラインでした。宗教的輸血拒否と終末期医療のいずれについても、まず過去に争われた裁判の判例を海外のものも含めて取り上げ、これまで司法はどのように判断してきたのか、判例のおよぶ範囲と及ばない範囲などを解説頂き、その上で「宗教的輸血拒否に関するガイドライン」(日本麻酔科学会など5学会、2008)と、「救急・集中治療における終末期医療に関するガイドライン」(日本集中治療医学会など3学会、2014)のポイントを解説頂きました。
 

ガイドラインは様々なケースを網羅するように作られてはいるものの、実際のケースでは対応に苦慮することもありそうだなという印象を受けました。例えば宗教上ではない理由による輸血拒否、未成年や胎児が関与する輸血拒否、患者の意思も推定意思も確認できない終末期ケースなど、ケースバイケースできっちりプロセスを踏んで対応する必要がありそうです。

 
今回の教育講座と関連して、厚生労働省が終末期に関する呼称を「終末期医療」から「人生の最終段階における医療」へと変更したことも話題に上りました。さかのぼると、以前は「末期医療」という名称が使われており、「悪性腫瘍患者を想定していた時代」「高齢化に伴って悪性腫瘍患者以外も対象にふくめるようになった時代」「個人の尊厳が重んぜられ、患者の意志をより尊重するようになった時代」という移り変わりを反映しているのだなと思います。自分自身の死が迫った時を考えれば「終末」と言われるのは確かに気分が良くないので、多少長いですが「人生の最終段階」という呼称も悪くないなと思いました。

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